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ますます重要になる人事・労務のコンプライアンス

コラム執筆者プロフィール

川島孝一 氏

(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
1966年、東京都大田区生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、サービス業にて人事 ・管理業務に従事後、現職。クライアント先の人事制度、賃金制度、退職金制度 をはじめとする人事・労務の総合コンサルティングを担当し、複数社の社外人事 部長・労務顧問を兼任する。経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。


第018回 精神障害と労災認定

(2014年9月)

 近年、精神障害による労災の請求が急増しています。これらの請求原因の多くは、「長時間にわたる残業やセクハラ・パワハラ等を受けることによって精神障害を発病してしまった」というものです。
 国も精神障害の労災認定を迅速に行うことを目的として、平成23年12月に「心理的負荷による精神障害の認定基準」を新たに定めました。
 今回は、精神障害による労災の認定について見ていきます。

<労働者災害補償保険とは?>
 労働者災害補償保険(以下「労災保険」といいます。)は、業務上の事由や通勤によって従業員が負ってしまった怪我、病気、障害、死亡等に対して必要な保険給付を行うことを第一の目的とした保険制度です。
 労災保険から保険給付を受けるためには、「業務上の事由」によることが条件となります。それでは、業務上の事由とはどのように判断するのでしょうか?
 業務上の事由と判断されるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの条件を備えていることが必要になります。いずれか一方が欠けてしまうと業務上の事由とは判断されず、労災保険の給付を受けることができなくなります。
 また、労災保険法上、通勤災害は「従業員が通勤に起因して被った災害」と定義されています。そのため、帰宅途中に「ちょっと一杯」などと寄り道をすると、原則として通勤災害として認められなくなります。

<業務遂行性の具体例>
 業務遂行性の具体的な例は、以下のとおりです。

(1)事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
 ・担当業務、事業主からの特命業務や突発事故に対する緊急業務に従事している場合
 ・担当業務を行う上で必要な行為、作業中の用便、飲水等の生理的行為や作業中の反射的行為等
(2)事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合
 ・休憩時間中に会社内で休んでいる場合
 ・始業前・始業後の自由時間中
(3)事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
 ・出張や社用での外出、運送、配達、営業などのため事業場の外で仕事をする場合
 ・会社以外の就業場所への往復、食事、用便など会社以外での業務に付随する行為を行う場合

<業務起因性>
 業務起因性は、先ほどの業務遂行性の(1)に該当する場合は、従業員の業務中の行為や事業場の施設・設備の管理状況などが原因となって災害が発生したと考えられます。そのため、従業員が故意に災害を発生させた等の理由がない限り、業務起因性が認められます。
 業務遂行性の(2)に該当する場合は、出社して会社内にいる限り、事業主の施設管理下にいるのですが、休憩時間や始業前・終業後は実際に仕事をしているわけではありませんので、行為そのものは私的行為になります。そのため、業務遂行性は認められますが、業務起因性が否定されるため、原則として労災とは認められません。
 最後に(3)ですが、出張等の場合は、事業主の管理下を離れていますが、事業主の命令を受けていることになりますので途中で私的行為を行わない限り、業務遂行性と業務起因性が認められます。また、休憩時間に食事に出る場合は、会社施設内であれば認められますが、施設外での災害は認められないことになります。

<精神障害の発病についての考え方>
 精神障害は、外部からのストレス(仕事によるストレスや私生活でのストレス)とそのストレスへの個人の対応力の強さとの関係で発病すると考えられています。
 発病した精神障害が労災認定されるのは、その発病が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限ります。仕事によるストレス(業務による心理的負荷)が強かった場合でも、同時に私生活で強いストレス(業務以外の心理的負荷)があったり、その人の既往症やアルコール依存等(個体側要因)が関係している場合には、どれが発病の原因なのか医学的に慎重に判断する必要があります。

<精神障害の労災認定要件>
 精神障害が労災認定されるための要件は、以下の(1)~(3)すべての要件に該当することが必要になります。
① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
② 認定基準の対象となる精神障害に発病前おおむね6ヵ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

 (1)と(2)の要件を読んでも漠然としすぎていてなかなかイメージが湧きにくいと思います。まず、(1)の「認定基準の対象となる精神障害を発病していること」ですが、『精神および行動の障害』という下記の分類表を用いて評価をします。
 業務に関連をして発病する可能性のある精神障害の代表的なものには、うつ病(F3)や急性ストレス反応(F4)などがあります。



 次に、(2)「認定基準の対象となる精神障害に発病前おおむね6ヵ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること」について見ていきましょう。この要件については、『業務による心理的負荷評価表』を用いて評価を行います。
 この評価表は、業務上のストレスをレベリングして評価します。今回は、スペースの都合で評価表は記載しませんが、インターネットで検索すれば簡単に見ることができます。業務による強い心理的負荷が認められる例としては、発病直前の1ヵ月におおむね160時間以上の時間外労働を行った場合等があげられます。
 最後に、業務以外の心理的負荷による発病かどうかの判断基準ですが、(2)と同様に『業務以外の心理的負荷評価表』により判断します。この評価項目には、金銭関係や事件・事故、災害等の経験等の基準が6項目あり、従業員が置かれている状況を当てはめて、業務外のストレスの強さを判定します。

 労災認定がなされると、会社は「安全配慮義務に違反した」として、従業員から損害賠償や慰謝料を請求される可能性があります。金額もかなり大きい額になってしまうため、会社経営を行う上で労災はできるだけ回避したい事項です。
 突発的に労災事故が発生してしまうケースもありますが、長時間にわたる時間外労働やセクハラ・パワハラは、事業主が未然にマネジメントし、コントロールすることが可能です。一度、自社の労働環境の点検を行ってみてはいかがでしょうか?


※本コラムは執筆時点で公となっている情報に基づいてコラムニストが執筆したものであり、コラムニストの意志を尊重し原文のまま掲載しています。
よって本コラムは必ずしも当社の意見や方針を反映したものではありません。
当社及びコラムニストはコラムの完全性・正確性・相当性等について、一切の責任を負いません。
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